〈香野広一のPoemサイト〉

Index詩集1 , 2

   ■ 詩集「沢蟹」より

1988年11月
ワニ・プロダクション

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                      沢蟹


かには言葉を束ねた器を
背負っている
だから真っ直ぐに進むことができない
石の群居に宿を求め
岩の核心まで
なめつくそうともがきながら
水泡でいっぱいになる

 
かには憤怒を挟撃する
刃物を備えている
飛沫となる言葉を
次々と四散させながら
刈りこんでゆく
帷子(かたびら)の星の破片なのだ

             

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    ■ 詩集「優曇華(うどんげ)」 より


 「優曇華」1997年 漉林書房

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                         石仏

人気のない所に
いろんな表情の
石仏たちが並んでいる
だれを見詰めているのか
まばたきをすることもなく
ただ じっと
見据えている

 こころの奥を覗き込むように
小首を傾げながら
石仏たちがたたずんでいる
何百年も前から
そのままの姿勢で
人のこころを
 覗き込むようにして

だれを待っているのか
手まねきをしている
石仏がいる
人々が村を去ってから
数十年は経過しているのに
いまだに戻ってくる気配はない
コケの生えたからだで
遠くの方に 目を
備えつけたまま
手まねきをしている

時間だけが注ぎ込まれている中に
置き去りにされた
石仏たちがいる
村人たちのけなげな姿に
ほほえみを送っていた
石仏たちが
寂寥と闇に晒されて
こころの数カ所が
剥落している
  

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